愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「君の厚意に甘え過ぎた。すまなかったね。今後は直接仕事に関することだけを頼むよ」

「そんな。どうせ自分の分も作らなくちゃいけないし、何も」
「ああ、わかってるよ、ありがとう。じゃ、ごめん」

 これ以上話はしたくない。
 いかにも忙しいといわんばかりに電話の受話器を取ると、五月は泣きそうな顔をしたまま部屋を出て行った。

 扉が閉じるのを待って、椅子の背もたれに体を預け、天を仰いだ。

「はぁ……」

 星光の誕生日は先月、八月九日だ。
 忘れてはいない。

 五月に『そろそろ奥さまの誕生日ですよね?』と聞かれて、俺は去年と同じように花束を贈るように頼んだ。

『花束だけじゃ寂しいですよ。ケーキとか、ハンカチ一枚でもいいから添えてあげたらいいのに。お任せくだされば用意しておきますよ』
 心羽に言われて、そのまま頼んだ。

 頼んだのは覚えているが、その後の記憶がない。

 星光の誕生日は、俺は確か出張でいなかった。そのまま忘れていたんだ。

 だが去年は? 去年は誰に頼んだ? 去年も五月に頼んだはずではなかったか。でも、おととしは?

『そういうことじゃなく』
< 49 / 211 >

この作品をシェア

pagetop