愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 星光の声が浮かぶ。

『綾星さん、あなたの心は私にはないでしょう?』

 胸がズキッと痛む。

 弁解のしようもないが、それでもそうじゃないんだ。そうじゃないんだよ、俺は忘れてはいない、君の誕生日も存在も。

 愛してはいなかったかもしれないが、それでも俺は……。
 その気持ちだけで、いつの間にかタクシーを必死で追いかけていた。

 再び大きなため息を吐き出したとき、ノックのあとに今度は透が入ってきた。

「おはよう。どうした? 今朝は一段と空気が重たいぞ」

 透の言う通りだろう。返事をするのも億劫なほど気分が重い。

「朝食の用意は必要ないって心羽ちゃんに言ったんだって? なんだか泣きそうな顔をしていたぞ彼女」

「俺が悪かった。言われるがまま厚意に甘えていたからな。直接業務に関係する仕事だけを頼むと伝えたんだ」

「ふぅん、今更感があるけど、言わないよりはいいかもね」

 何気なく言っただろう透の〝今更〟という言葉が、針のように心に刺さる。

「そうだよな。もっと早く断るべきだった」

「何かあったのか?」
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