愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「ん―、おいしい」
感動がうっかり口から漏れてしまったらしい。
「よかったです」と声が聞こえて顔を上げれば、カウンターの中にいる板前さんが笑っていた。
「さっぱりしていて、とってもおいしいです。カボチャの煮物」
「鹿ケ谷カボチャという京野菜なんですよ」
「そうでしたか」
ホテルに近いこの小料理屋は、京野菜をふんだんに使った食事が楽しめるとあって女性客が多い。食通の女の子のインスタグラムで見かけて以来、京都に来るたびに顔を出しているお気に入りの店だ。
一口ずつ盛り付けされたおばんざいは目にも鮮やかで、それぞれ違う味付けで飽きがこないし、何より野菜中心だから罪悪感がないのもうれしい。
ドアベルの音に振り向くと、待ち人が来た。
右手を上げて手を振り、にっこりと笑みを浮かた和服の女性が真っすぐ歩いて来る。
「お待たせ」
「お母さん。大丈夫だったの?」