愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
「国会議員の妻でいるのは大変なの。選挙活動とか色々ね。私も必死でがんばったけれど、やっぱり辛かった。お父さまが浮気したあの頃、私はちょっと変だったの」

 母は遠い目をして溜め息をつく。
 私は一切選挙活動をしなくていいと言われて育ったけれど、母の経験があるからだろうか。

「お父さまは私に自由をくれたのよ。馬鹿だったわ、あの人はそんなに頑張らなくていいって言ってくれていたのに」

「じゃあ、お母さんは離婚を後悔しているの?」

「後悔はしない主義なのよ」
 返事にならない返事をした母は、私を振り返る。

「それで? 何があったの?」
「うーん……」

 母に余計な心配はかけたくない。
 綾星さんは他に好きな人がいて私に指一本触れないなんて言ったら、母はショックだろうし傷つくと思う。
 解決できる問題なら相談したいが、いったところどうにもならない。誰も救われないのだ。

 少なくとも私はとっくに乗り越えていて元気だし、私のせいで悲しむ母は見たくない。

 理由なんてどうでもいい。
 私は適当にごまかすことにした。

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