愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
五月心羽、ね……。
あれは結婚して三カ月くらいの頃だったか。
出張中の綾星さんから、五月という女性秘書が行くから、書斎の机の上にあるノートパソコンを渡してほしいと連絡があった。
その日は梅雨前の暑い日で、私は何も警戒せずマンションに現れた彼女を招き入れた。
『お急ぎでなければ冷たいものでも、いかがですか?』
『ありがとうございます』
彼女はふわふわとした柔らかい雰囲気をまとったかわいらしい女性だった。
少し垂れ目がちの瞳、ぽってりした唇。肌も白くて、声も甘くて。身長は一五五センチくらいだろうか、私より十センチくらい低かったと思う。
『あのぉ』と潤んだ瞳で彼女は切り出した。
『私、綾星さんが好きなんです』
知り合った経緯から現在に至るまで。
自分がいかに綾星さんに愛されているかを、彼女は滔々と語った。
『それであなたは私にどうしろと言うの?』
私がそう聞くと、彼女は涙をためた瞳で私を見つめた。
『彼と別れてください』
『私が彼と別れたら、五條家がどうなるかわかっているの?』
私はショックを受けるよりも呆れていた。
『最悪の場合、彼は一文無しになるかもしれないけれど、あなたはそれでもいいのね』