愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 綾星さんがGoJから去らずに済んだのは私の父のお陰だ。
 なのに結婚早々女性問題で別れるとなれば、私の意志に関係なく、父は絶対に彼を許さないだろう。大げさではなく、完膚なきまで彼もろとも五條家は潰されると思う。

 彼女はそれがわかっていない。

『それは……』と俯いた彼女が出した結論は。

『私は彼の愛人でもいいです。でも、綾星さんがかわいそう』

 泣きながら、彼女はノートパソコンを抱えて飛び出して行った。

 愛人でいいって、どういうこと? 一文無しの彼では嫌なの?

 私の立ち位置ってもしかして、ラノベで言うところの悪役令嬢なのかしら。
 そう思ったらなんだかおかしくて涙も出なかった。

 だからなのね、とも思った。

 あんなにかわいい恋人がいるから私に触れないのかと納得もした。
 彼女は私とは真逆のタイプ。私は美人とは言われてもかわいいとは言われない。

 似ているならまだしも全く違うんだもの、どうにもならないわねと白旗を上げたのである。

 あれから三年。
 まさか、こんな落ちがつくとはね。
 思ってもいなかった。

 綾星さんはどんな気持ちなのか。
 信じていた秘書に裏切られたというだけでなく、好きだった女性の本性を知って傷ついた?

 もしかしたら私よりもショックを受けているかもしれない彼を、屋敷の門の前で見送った。


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