愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 リビングには、兄だけがいた。

「今日は泊まるんだろう?」
「いいえ、帰るわ」

 兄がじっと私を見る。
「星光、どうして言わなかったんだ、五月心羽のこと」

「なんとなく嘘だろうなって思ったから。彼女は綾星さんの口添えで秘書になったと言っていたけど、彼は人事に私情を挟んだりしないと思うし」

「星光も甘いな。人事部長の忖度はあったかもしれないぞ?」

「あ、そうか」
 なるほど十分に考えられるかも。

 感心する私を、くすくすと兄は笑う。
「で、どうするんだ?」

「ひと月延期することになりました」

 兄は「ほぉ」と言っただけで、特に意見は言わなかった。

「それでお前は今どこに住んでいるんだ」

「あ、バレちゃった?」

 今度はあははと笑い合う。
 お見通しのうえで自由にさせてくれたのか。

「お前もいい大人だ。好きにしたらいい。だが居場所はちゃんと連絡しろ。何かあったときに困るだろ?」

「はーい。ごめんなさい」

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