愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~

 綾乃ちゃんのストーカー被害の時に、兄に『仁に相談するといい』と勧められて、相談に乗ってもらったのをきっかけにこの店に来るようになった。

 ここは氷室さんの友人や氷室さんが身元を保証する人しか入れない店なので、女性が不安なくひとりで飲みに来ても安心できる。
 氷室さんがいてもいなくても、時々私は来ていた。

 シェフの創作料理が絶品なのだ。
 今夜のお通しのスモークチーズも絶品で、味わうほどに様々なスパイスの香りが口に広がって、幸せな気持ちになる。

「この前パーティで五條さんから声をかけられたよ。綾乃ちゃんと来ていて、その節はお世話になりましたってね」

「え? 二年も前の話なのに?」

 あははと氷室さんは笑う。
「綾乃ちゃんが内緒にしたいって言ってたからね。お兄さんに言えるだけ気持ちが落ち着いたんだろう」

 それはそうなんでしょうけれど。

 あの日は、綾星さんも彼の父も長期海外出張でいなかった。
< 94 / 211 >

この作品をシェア

pagetop