愛しているので離婚してください～御曹司は政略妻への情欲を鎮められない～
　マンションに駆け込んできた綾乃ちゃんは、青い顔をしてガタガタ震えていて、聞けば誰かに後を付けられていると言う。

　私はまずは五條の父や綾星さんに相談するほうがいいと勧めたけれど、綾乃ちゃんは嫌がった。
　五條家を建て直すために必死な父と兄に心配はかけたくないと言うのである。
　彼女は家族思いの優しい子だから。

　氷室さんの警備会社が突き止めてくれた男はストーキングの常習犯で、ターゲットの女の子をどうこうするつもりはなく、プライベートを手に入れるのを喜びにするという異常者だった。

　綾星さんが出張から戻った時には既に犯人は逮捕されていて、綾乃ちゃんは精神的ケアを受けるために心療内科に通い始めていた。早く忘れたかった彼女は、父や兄に説明して恐怖を呼び覚ますのを恐れていたのかもしれない。

　あの時はどうしても言いたくないと言っていたけれど、もう口にできるほど気持ちが回復したのだろう。
　良かった。

　ただそれにしても、綾星さんには呆れてしまう。
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