愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 言わなくても、気づくきっかけはいくらでもあった。あの時期の綾乃ちゃんはげっそりと痩せてしまったし、マンションにもよく泊まりに来るようになったのに。

 綾乃ちゃんががんばって顔に張り付けた明るい笑顔を、彼はそのまま信じていたのだろうか。
 
 仕事で頭がいっぱいとはいえ、それってどうなの?

「真面目だろ、五條さん」

 真面目……。
 はあ。たぶん。お兄さまもそう褒めていたし。

「そうですねぇ」

「浮気の心配はないな。女には不器用そうだし。よかったな、いい旦那で」

「はぁ」

 離婚するとも知らず、氷室さんは笑ってワインを注ぎ足してくれる。
「ま、飲んで。このカオマンガイもうまいぞ。パクチー大丈夫だったよな?」

「はい。大好きです。そうそう、京都に行っていたんです。しば漬けをお土産に買ってきましたよ。どうぞ」

「お、サンキュー」

 じゃあ早速と、氷室さんはマスターに包みを渡す。彼はこのしば漬けが好きだ。

 包容力のある優しい先輩に、おいしい食事。
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