愛しているので離婚してください~御曹司は政略妻への情欲を鎮められない~
 このお店があってよかった。

 つまらない話でも笑って聞いてくれる氷室さんがいたから、私は悶々と打ちひしがれずに済んだ。

 何しろ私には、気軽に相談したり押しかけたりできる友達がいない。青扇学園に通っている間、友人はたくさんいても、終ぞ親友ができなかった。

『星光はかっこいいな。女の子の一匹狼。俺はそういうの好きだぞ』

 時々ひとりでランチを食べている私を見かけた氷室さんが寄ってきて、そう言って笑ってくれた遠い思い出は今も心を温めてくれる。

 あの頃、親友がいないイコール悪だと、どこか後ろめたく思っていた私は、氷室さんの一言で救われた。

「氷室さんは結婚しないんですか?」
「ん? まぁあれだ。結婚したら店に入り浸ってもいられないだろうしなぁ」

「そうですか? 世の中には、仕事でいつもいない夫だって沢山いますよ」

 綾星さんのように。

「仕事と遊びじゃ違うだろ」

「でも、氷室さんにとっては仕事のようなものですよね? ここは大切な交流の場でしょうし」

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