【完】鵠ノ夜[上]
第零章 鵠の独り言







『……ねえ、(くぐい)って、知ってる?』



『まあ、鵠って名前に聞き覚えはないわよね。

……今は、"ハクチョウ"って言われてるもの』



『鵠はね、ハクチョウの古名なのよ』



『ハクチョウって、綺麗な鳥よね。

生態とかそういうのは関係なく、真っ白で綺麗だと思わない?』



『ハクチョウに対してどんなイメージを持つかは、たしかに人それぞれでしょうけど。

……わたしはあんな風に白く清い生き物にはなれないから、好きなのかもしれないわね』



『馬鹿馬鹿しいって言われるかしら。

……でもわたし、生まれ変わるなら、ハクチョウのように穢れを知らない"女の子"になってみたいの』



『だけどそうなったとしたら……

きっと、あなたとは巡り会うことも出来ないんでしょう?』



『こうやって生きてきたからあなたと出会えたのに、あなたとの幸せはこの生き方じゃ掴めない。

……上手くいかないことが、この世のカラクリなのよ』



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【 鵠 ノ 夜 】



「……溺れる自分自身が、

滑稽に思えてしまうくらいあなたが好きよ」



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