【完】鵠ノ夜[上]
……途方もない、と思う。
ぼくだって好きな人くらいいたことはあるけど、十年もその気持ちを一途に持ち続けられるかどうかと聞かれたら、素直に「はい」とは言えない。
「でも相手には、ずっと付き合ってる人がいて。
彼氏さんとも昔からの仲で、割り込めないのはわかってたのよ。そのふたりがこの間結婚したから、悪い言い方をすれば"妥協した"ってこと」
だから……そんな表情なんだ。
レイちゃんは、それこそ和璃さんの片想いの過去を知っていて。口調から察するに、和璃さんの片想い相手にも、詳しいんだろう。
「まわりがどうこう言ったって、
……張本人がしあわせならそれで十分だろ」
静かな部屋に、そう落としたのはめずらしくシュウくんで。普段はレイちゃんと話そうとしないシュウくんがそう言うなんて、彼女もびっくりしたらしい。
一瞬驚きの表情を見せていたけれど、次の瞬間なんでもなかったみたいに「そうね」と笑った。
「……幸せでいてくれるなら、それで十分よ」
レイちゃんの瞳は、いつも彼女と同じように、花みたいに、綺麗で。
……でも、どうしてだろう。この場所を。ぼくたちを、うつしていないように見える時がある。
「さてと。暗い話はここまでにして、」
「……レイちゃん」
「プレゼントも渡したいから、早く夕飯済ませちゃいましょう」
彼女はぼくたちの話を、誰よりも真剣に、向き合って聞いてくれる。だけど彼女は、自分の話をぼくたちにはしてくれない。
それが彼女なりの答えなんだと、わからないほど子どもではなかった。
「え、プレゼントまで用意してくれたの!?」
今のはちょっとだけ、つくったリアクション。
わからないほどに子どもではないけれど、わかるほど大人でもないから聞こうとしないのは、所詮ぼく自身のエゴ。都合良く解釈したいだけの、劣等に塗れた偽善者の考え方。
そうとも知らずに。……いや、知っている上で、か。彼女は「ええ」と穏やかに笑ったみせた。
先ほどまでの哀しげな瞳は、作り上げた仮面の下に隠して。