【完】鵠ノ夜[上]
「今日の放課後は、みんなそのまま帰宅する?」
いつもと変わらぬ問いかけ。
芙夏の予定までは知らなかったけれど、雪深と胡粋が芙夏を含めた三人で遊びに出掛けるらしい。仲が良くて何よりだ。
柊季はジムに行くらしいし、はとりは個人的な予定があるんだとか。
ならそのまま帰るのはわたしだけね、と思っていれば、小豆は「帰りどこかに立ち寄られますか?」と聞いてきた。
他のみんなとは別行動だから、どこかに連れていってくれるようなのだけれど。
……生憎仕事も溜まっているし、今日はやめておくと断った。
「左様ですか。それでは雨麗様、いつものお時間にお待ちしております。
みなさま、いってらっしゃいませ」
車を降りて、小豆からバッグを受け取る。
それを肩にかけて、過剰に引っ付いてくる雪深にベタベタしないでと言いつつ、学校にたどり着くと、もはや定番のように女子生徒たちから睨まれる。
はかったわけじゃないけれど、最近は自然と別行動が少なくなったから、余計に。
特に雪深を好いている女の子たちから標的にされるのは、彼がここ最近本当に遊んでいないからなんだろう。
「お嬢~。
……離れんの惜しいけど、またね」
だいすき、と教室の前で囁かれたと思えば、彼のくちびるが抵抗なくわたしの頬に触れる。
おかげでさらに女の子たちの視線が鋭くなったけれど、なんというか不可抗力なんだから仕方ない。
「ほんとお前周り見たほうがいいよ。
じゃあねレイ、コイツは俺がしっかり叱っとく」
「あっこらっ、引っ張んな胡粋……!」
ずるずると胡粋に引き摺られるようにして教室の中に消えていった雪深。
はとりと柊季は知らないうちに教室に行ってしまったようで、わたしもようやく教室へと足を踏み入れた。
席について、机の中に手を入れれば案の定、ここ最近見かける封筒と同じものが一つ。
周りに気づかれないようこっそり開いた便箋の中には、筆跡で調べられないようにするためか、パソコンで打ち込んだであろうゴシック体の文字が並んでいた。
『今日の放課後、一人で第一音楽室に来い』
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