【完】鵠ノ夜[上]
第三章 波紋の広がる水面下
◆ ひび割れし、雪の残像
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「女子と男子で体育別れてんのってさ。
マジで男が不憫だと思うんだよねえ」
「お前みたいな変態がいるから分けてんでしょ」
馬鹿じゃないの、と今日も安定に罵ってくる胡粋。拗ねるように、中の見えない体育館を見つめる。
俺等とお嬢のクラスは体育だけ合同授業だ。……が、しかし、男女別ということもあってお嬢の姿が見えない。逆ならまだしも、今日は男が外だから、中の様子をまじまじ覗くわけにもいかなくて拗ねるしかない。
「胡粋だってお嬢の姿見たいくせに」
「毎日一緒にいるじゃん」
「体操服ってさ……
なんかそそるもんがあるじゃん」
「お前、ほんっと期待を裏切らないよね。
俺そういうコスプレ趣味みたいなのないから」
だってあのお嬢だよ?
残念ながら下はロングのジャージだったけど、体操服って割と薄い素材で出来てるせいで、薄らと透けてるのとかやっぱりそそ……って、こういうとこを怒られてんのか。
「……あれ、レイじゃん」
「ん?」
ジッと体育館の方を見た胡粋につられてそっちを見れば、確かにお嬢が一人で体育館から出てきていた。
どうしたんだ、と気になってしまえば、「おいこら聖ー?」と教師に声をかけられても止まれない。
「お嬢!」
俺に気づかず校舎の方へ向かう彼女を呼び止めて。
足を止めてくれたお嬢に駆け寄れば、彼女は「雪深」と名前を呼んだあと、同じようにこっちへ来ていた胡粋の名前を呼んだ。
「どうしたの? 授業中でしょう?」