【完】鵠ノ夜[上]
「俺らはちょっとだけ休憩中。どしたの、一人で」
「あ、うん……大したことは無いんだけど。
ちょっと足首捻っちゃったみたいで、」
「大丈夫? 痛いなら運んであげようか?」
「歩けるから平気よ。
……それより、先生がこっち見てるじゃない。ふたりとも、わたしは平気だからもどりなさい」
ね?と。
柔らかく拒まれて、「気を付けて」と彼女を見送る。女子何やってたんだっけ、と胡粋に聞けば、「バドでしょ」と返事が返ってくる。
「……お嬢、体育の時間苦痛だろうな」
ある程度男子の集まる方へ歩みを向けつつ、何気なく零した言葉に「そうだね」と胡粋が賛同する。
運動が苦手だとか、そういう事じゃなくて。何かとペアにさせられたりチームになることの多い体育じゃ、誰かと協力する必要が出てくるからだ。
「でも女子の妬みってさ。
……俺らが原因っぽいけどわかってる?」
「……わかってるよ」
だけど離れたくない。
お嬢に妬みが向けられる原因が俺らなんだとしてもそばにいたいし、何より護衛として守るべき存在である彼女から離れることは許されない。離れる気もねえけど。
「明日の計画だってさ。
……お嬢が喜んでくれなかったとしたら、」
「……やめてよ、芙夏がせっかくレイの誕生日祝おうって言い出したんだから。
俺と雪深は良いかもしれないけど、誰よりも五家を取り持ってくれる芙夏が落ち込んだら、それこそ俺らは纏まれないじゃん」
「……そうだねえ」
このままじゃだめだってことは、たぶん全員がわかってる。
すぐに崩壊するのは目に見えてること。それでも誰も歩み寄れないのは、そこにある真実を、誰も、知らないから?