【完】鵠ノ夜[上]
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「コレとかどうよ~」
ひらひらと。シースルーの揺れるワンピースを手に取って言えば、嫌そうな顔をするのは胡粋で。
だろうなと思いつつ、ハンガーを棚に戻した。
「それどう見ても雪深の趣味全開だよね。
どう考えても俺はこっちの方がいいと思うけど」
「ぼくはこれとこれ好きだよー。
……じゃなくてっ!店員さんたちみんななんとも言えない顔してるからちゃんと考えようよー!あとそれ一式買ったら予算オーバーだもんっ!」
むむむっと膨れながら値札を見せつけてくるのはこの場の最年少。
俺らが三人で放課後出掛ける、というのは、例の誕生日パーティーのプレゼント選びのため。シュウはジム帰りに、頼んである花を買ってきてくれんだろうし。
この間芙夏の誕生日にケーキだったから、という理由で、お嬢の誕生日はケーキではなく、色々な和菓子を買うことにしようと決まった。
ちなみに言わなくてもわかると思うが、やたら和菓子を押してきたのは胡粋だ。絶対自分が食いたかっただけだろ。
……とまあ、その和菓子を明日はとりが買いに行ってくれるってことになってるし。
今日ははとりだけが私用で出掛けている状態だ。いや、シュウもジムは個人的な用事だろうけど。
「そもそも決まらなかったけど服にすんの?
レイは確かに洋服あんまり持ってないって言ってたけど、あんまり必要ないって言ってなかったっけ」
「……そしたら何にすんの?」
「……だから悩んでんでしょ」
決まらねえ、とため息をつく。
一応軽く五人で話し合ったけど、恋愛経験のあるヤツがいても、俺らがプレゼントをあげる相手は恋人じゃない。それがネックになって、決まらなかった。
「もうレイちゃんに何が欲しいか聞けばいいんじゃないかなぁ」
「それはダメ」と言ったのが、上手い具合に胡粋と重なる。
そもそもサプライズって言い始めたのは芙夏なのに、お前がそれを先に壊してどうすんだよ。サプライズじゃねえんだったら、聞いてもいいけどさ。
「てかさ、服は必要なくて、化粧品はブランド物使ってんでしょ?
バッグもアクセサリーも一流品持ってんのに、俺らがあげて喜んでくれるようなもんあるわけ?」