【完】鵠ノ夜[上]
ショッピングモールの一角で、悩む男子高校生が二人と男子中学生が一人。
傍から見ると絵面可笑しいんだろうな、と余計なことを思いながら悩んでいたら、「茲葉くん?」と掛けられる声。顔を上げた芙夏が、あっと小さく零す。
どうやら中学の知り合いらしい。芙夏と同じ制服の女の子が三人。
こんなところで何してるの?と笑った彼女たち。こんにちはと俺らにも丁寧に挨拶してくれて、なんとも高校生とは違う純粋さを感じる。
「えっと、んーと……
三人で、女の子のプレゼント探してて」
「プレゼント?
ああ、もしかして御陵先輩に?」
知っているように名前が出てきて、思わずぱちぱちと瞬きする。
お嬢のこと知ってんの?と芙夏を通して尋ねたら、どうやらお嬢は芙夏が通う中学の出身だったらしい。なるほど、つまりこの子たちはお嬢の後輩なのか。
「御陵先輩、結構なんでも喜んでくれるよ?
んー、今まで色々渡したけど……入浴剤とかバスソルトとか、お風呂で使えるのが一番気に入ってくれたかなぁ」
あとクリームとか、女性らしいものの方が喜んでくれるかな?と。
なんとも助かる助言をくれた。さすが後輩。俺らよりもお嬢に詳しいのがちょっと妬けるけど。
「ありがとー!
困ってたからすごく助かった……!」
「ふふ、お役に立てたならよかった。
御陵先輩に、また遊びに来てくださいって伝言しておいてね」
何の毒気もない会話に、純粋だなとぼんやり思いつつ。
もちろんと返事する芙夏。彼女たちが、「じゃあまたね」と手を振れば、それを呼び止めたのは胡粋で。
「一つ聞きたいんだけど……
レイ……雨麗って。中学の時、友だちと仲良かったの?今聞いてる限り、随分穏やかそうだけど」
「誰とでも仲良しでしたよ?
誰からも好かれてて、自慢の先輩で。……ああ、でも。"家のことがあるから、高校ではひっそり生活する"って卒業式の時に言ってました」
それを聞いて、思わず顔を見合わせる。
つまり彼女が周りの人間と大して打ち解けようとしないのは、御陵の跡継ぎであることを誰よりも気にしているからだ。
三人の女の子にお礼を言って別れると、雑貨屋に向かう途中で、誰もがそれについて考える。
確かに、何の関係もない一般人を巻き込みたくないという考えは、お嬢の中に根強くあるものなんだろう。堅気の人間に近づかない訳では無いが、あまり関係を持ちたくないんだと思う。