【完】鵠ノ夜[上]



だから彼女は、学校で必要以上に誰かに干渉しないのか。

そう遠くない未来を見据えているから。いいや、婚約の話が出てから、それらがすぐそこまで来ていることを、痛いほどに実感しているから。



「買ってきたよー。

ラッピングも有料だったけどお願いしたー」



「ん。ありがと、芙夏」



「夕飯食べるって連絡しちゃってるから、そろそろ帰るー?

コーヒーショップに寄ってる時間くらいならあるけど、」



「ううん、帰ろ。雪深もそれでいい?」



「ん……それでいい」



どこか生返事なのには気づいていただろうけど。

考えてる事は自分も同じなのか、深くは聞いてこない胡粋。なんだかんだ俺のこと理解してんだよなあ、とそんなことが頭をよぎったのも一瞬で、彼女の本音に胸が軋む。




「俺さ……お嬢にどうして欲しいのか、あんまりわかんないんだよねえ。

周りの人間に必ずしも関わんなきゃいけないってことじゃないし。むしろお嬢を妬むようなヤツとは、仲良くしなくてもいいと思うけど」



「レイが平和に暮らせたら、いいんじゃないの」



「レイちゃんに、

笑顔でいてほしい、とかじゃない?」



芙夏に言われて、ああそうかも、と思う。

家にいる時はいつも見せてくれる優しいあの表情。俺らといる時はいつもその笑顔を見せたくれるけれど、普段何気ない時にだって、浮かない顔をせずに笑顔でいて欲しい。



そのためなら、俺たちだって協力するし。

そばにいるから、笑っていて欲しい。



「好きな女の子には笑顔でいてほしいもんねー」



芙夏が何の下心もなく純粋にそう言うから、好きな女の子、って単語に今さらちょっと照れくさくなるけど。

事実なのは確かで、「ん、」と照れを隠しきれないままに返事する。



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