【完】鵠ノ夜[上]



おいおいおい、ストーカーって。

何それ笑えねえんだけど、と焦燥感がさらに増す。だって、ストーカー、ってことは。お嬢に異常なほど執着があるということだ。



つまり。

お嬢を傷つけるようなことをする可能性、だって。



いてもたってもいられない。

だけど小豆さんが指示をしている限り、簡単には外に出させてくれないだろう。手の中のスマホを、ぎゅっと握り締めた時。



「っ、小豆さん……!」



震えたそれに表示された相手の名前は、まさに今安否を確認したい相手から。

彼は俺に冷静なまま「出てください」と告げる。安堵にも見えるけれど、その表情がまだ和らいでいないのは、相手がお嬢である確証がないからで。



はやる気持ちを抑えるように、電話を繋ぐ。

スピーカーにして恐る恐る「お嬢?」と声を掛ければ、向こうからは『雪深』と静かに俺の名前を呼ぶ彼女の声が返ってきた。



それに思わず、ホッとする。

今どこ?と問い掛ければ、なぜか彼女は駅近くのカラオケボックスにいると答えた。なぜカラオケボックスなんかにいるんだろう。




『わたし学校で襲われる所だったみたいなのの。

……生憎、昔からそういう稽古を怠ったことがないからあっさり抜け出して手出しされなかったところまでは良かったんだけど。なかなか黒幕を吐いてくれなくて』



襲われる……ところ、だった?

平然と無事だったと言うけれど、お嬢が過去に稽古を積み重ねてこなければ絶対に無事ではなかったその状況に、ゾッとした。



『学校が閉まるからとりあえずカラオケボックスまで移動してきて、色々尋問して吐かせたら、どうやら主犯があなたを好きな女の子が数人だったのよね。

まさかわたしが無事だったなんて思わなかったみたいで、呼び出させたら今目の前で怯えてるんだけど』



「お嬢、」



『この子達どうしようかと思って。

……ああ、そこに小豆いるだろうけど、連絡出来なくてごめんなさい。スマホの充電切れちゃって、さっきカラオケボックスで充電器やっと借りたのよ』



「雨麗様……

とりあえずそちらまでお迎えに上がりますので」



『あら、そう。ありがとう。

何なら雪深も連れてきてちょうだい』



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