【完】鵠ノ夜[上]
それだけ言って、電話が切れる。
自由すぎだろ……とようやくそこで、今度こそ安堵の息を吐き出すことが出来た。本当に、何かあったらただじゃ済まないところだった。
「聖様、申し訳ありませんが同行して頂いても?」
「行きます」
そう言って席を立つと、珍しく同行を名乗り出たのははとりで。
まあ唯一私用で出かけてたんだもんな、とそれを特に疑うこともなく小豆さんと三人でカラオケボックスに向かうと、「俺らで迎えに行ってきます」と車を降りた。
当然店に入ればそのまま部屋へ、というわけには行かず。
お嬢から後で送られてきていた部屋番号と、迎えに来たことを告げると、すごく嫌そうな顔をしながらも一度部屋に電話を繋いだ店員が「どうぞ」と通してくれた。
「はとり」
エレベーターのボタンを押して、部屋に向かう途中。
名前を呼べば、「なんだ」と俺に視線を向けるはとり。俺が言うのもなんだけど、相変わらず綺麗な顔してんな。……誰よりも大人っぽいし。
「着いてきた理由は?」
「……別に大した理由じゃねえよ。
何なら、理由もないと思え」
「いっそ好きって言われた方が清々しいわ。
……ま、別にお嬢のことが好きでついてきたわけじゃねえだろうけど」
どうせ言わねえんだろうな、とエレベーターを抜け出せば、話は終わりだ。コンコン、とお嬢から聞いた部屋の扉をノックする。
それから扉を開ければ、広い部屋の中で片側のソファの真ん中に座るお嬢。向かい側の奥には男が三人、おそらく彼女を襲う予定だった実行犯。
手前にいる、黒幕だったであろう女が四人。
全員に見覚えがあって、もれなく同じ高校の生徒だ。俺の姿を見た女たちが俯いたけれど、正直どうでもよくて。
こっちにいらっしゃいと俺を招く声に近づくと、彼女が俺の髪を撫でてその手を頬に滑らせ、自分の方へ引き寄せる。
そのままお嬢の手が、俺の服のボタンを冷静に一つ外す。
「あなた達には悪いけど……
この子はね、"わたしの"なのよ」