【完】鵠ノ夜[上]
首筋の下、制服ならばギリギリ隠れるそこにあるのは少し前にお嬢につけられた赤い痕。
拒まなかったし、むしろそうやって自分のだとアピールするようにつけてくれたことが純粋に嬉しかったと思う俺が可笑しいのか。
「……雪深。
この際はっきり言えばいいんじゃない?」
迷惑でしょ?と。
言うお嬢の腰に腕を回して抱き寄せながら、「そうだね」と呟く声が無意識に低くなる。女の子との付き合い方に口うるさい方ではないけれど。
「……お嬢を襲うように四人で決めたわけ?」
「ぁ、」
「四人で決めたの?って聞いてんだけど。
……はとり、ちょっとBGMの音下げて」
ボックス内のボリュームを下げなくたってちゃんと聞こえてんだろうけど。
返事がないのを見ると、どう考えたって肯定でしかないんだろう。それでも足掻こうと言い訳に口を開く姿は、滑稽すぎて笑えてくる。
「た、確かに気に食わないからちょっと乱暴なことしてって頼んだけど……っ。
途中でやめてくれればそれでよかったって思ってるし、ッ、実際は何もされてないんだから……っ」
「何もされてない?
お嬢が稽古してたが故に、何も出来なかったの間違いでしょうに」
彼女の指に、女の子たちへ見せつけるような口づけを落とす。
それはもちろん、彼女へ忠誠を誓っていることを見せつけるためであって。決して、恋愛感情で彼女が好きだという意味の見せつけではないけれど。
「……あと、途中までって何?
服脱がせてそこで終わり?なら別に男呼ぶ必要ないもんね?軽くいじめて終わり?目の前に都合よく好き勝手できる女がいて、男がそんな半殺しの状態でやめてくれるなんて本気で思ってんの?」
「っ、」
「お前らがお嬢にやろうとしてたこと。
今ここで、お前らが声掛けた男にそっくりそのままやらせてやろうか?」
女の子に優しいってよく言われてたけど。
大事な女を傷つけられて優しくしてやれるほど俺は優しくない。むしろはじめは丁寧な対応をしただけ有難いと思ってほしいくらいだ。