【完】鵠ノ夜[上]

◇ 煌めき零れる、金剛石








「……うそ、」



無い、無い……とバッグを漁る。

立てないせいで這い寄るという不格好なことをしながらブレザーのポケットもスカートのポケットも探ってみたけれど、やっぱりそこにはあるはずのものがなかった。



「……何されてるんですか、雨麗様」



手当てするための湿布を持ってくると言って部屋を出ていた小豆に冷ややかな目で見下ろされる。

しかしそんなことを気にもとめないほど、今のわたしは焦っていた。……何故ならば。



「スマホ……忘れてきちゃったかもしれない」



「……カラオケボックスにお忘れでは?

充電してる、って仰ってたではありませんか」



確かにそうだ。

充電器に繋いでおいたのを、雪深たちと出てくる時に持って帰ってくるのを忘れたらしい。ロックは掛かっているから中身は見れないだろうけど、手元にそれがないと不安で仕方ない。




今日はさっきまで、心配をかけてしまった分いつもよりも長めにみんなと時間を過ごしていたから、すっかりスマホの存在を忘れていて。

さあ、と顔から血の気が引く一番の理由は、スマホ本体よりも、それに付けられた彼からのプレゼント。



「無くなってたら……どうしよう……」



「カラオケボックスに連絡は入れておきます。

……忘れ物として残ってるなら良いですが」



簡易で連絡できるものを手配しますね、と告げられて、くちびるを噛む。

湿布を貼り終えた小豆が顔を上げたかと思うと、「噛まないでください」と優しい声でわたしに言ってから、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。



「大丈夫ですよ。

雨麗様の大切なものですから、きっと見つかります」



「小豆……」



伸ばした腕を背中に回して、ぎゅう、と抱きつく。

昔もこうやってよく甘えていたものだ。決まって不機嫌になる憩に、「俺の方に来い」と強引に抱きしめられていたけれど。小豆の抱擁もひどく安心する。



< 129 / 271 >

この作品をシェア

pagetop