【完】鵠ノ夜[上]
「……雨麗様」
「わたしが、あなたの名前を忘れない限り。
……あなたはわたしの側にいて」
「……かしこまりました」
小さく笑った小豆を瞳に収めて、再び目を閉じる。
小さい子をあやして寝かせるように、心地いいリズムでとんとんと叩いてくるのは正直子ども扱いをしすぎな気もするけれど。
「……おやすみ」
「おやすみなさい。……いい夢を」
疲れていたのか、案外あっさりと眠りに落ちていく。
──今日の放課後、指定された通りの音楽室に向かえば、待っていたのは三人の男。どうやらわたしを襲うのが、目的だったらしいけど。
「ッ、は、」
「っ……誰だよ、
普通の女だからとか言いやがったの、ッ、」
昔から稽古を重ねてきて、大の男に武道で勝ててしまうわたしにとっては、三人の男に抵抗するのも容易かった。
もちろん部屋に入った瞬間捕まえられて、甘い結び方でロープで縛られたけど。それくらいなら多少力を加えて工夫すれば簡単に解ける。
タイミングを見計らって一人の男に足を掛けたときに一回、その後残りのふたりが気づいて捕まえに来るのから逃れようとした時に一回。
計二回足に力を入れたせいで、痛めた足首が歩けないほどに悪化してしまったわけだけれど。
……まあ抵抗しなかったら襲われていたわけだし。
わたしを縛るために用意されていたロープで、もちろん解けないようにがっちり彼等の手を縛ってから。誰が黒幕?と尋ねたのだけれど、なかなか口を割らなかった。
答えてくれれば、あなた達には大きな被害がいかないようにするわ、と。
そんな揺さぶりで、結局は呆気なく陥落するような男たちを選んだ女の子たちに同情する。
吐いてくれた後にもう一度証言として音声を録音して。学校が閉まってしまう前にひとまず移動しようとカラオケボックスまで移動した。
男の一人に「御陵雨麗を襲った証拠を持ってきた」と女の子たちを呼び出させ、部屋に入ってきた彼女たちがわたしを見た瞬間の、あのなんとも言えない表情は、さすがに悲痛としか言いようがない。