【完】鵠ノ夜[上]
「な、んで、」
「たかが男三人でわたしを襲えると思ったの?」
「ッ、」
「ああ、逃げない方がいいわよ。
彼等から、あなた達に指示された証拠の録音をさせてもらったから。……もしこの場から逃げたら、明日学校でばら撒くことにしたわ」
幸い、呼び出しを受けた手紙も残ってる。
御陵の力を使われたくないでしょう?と"極道"であることを匂わせる発言にさすがに怖気付いたのか彼女たちは部屋に入ってくれた。
……ま、逃げられたらさっき言った通り証拠をばら撒くだけのこと。
ひどいと言われるかもしれないが、わたしが被害に遭っていたらと考えると痛くも痒くもない話だと思う。
彼女たちを前に、どうしてわたしを襲う気だったのと冷静に尋ねるわたし。
顔ぶれを見ればなんとなく予想はついていたけれど、案の定「雪深と仲良くしている」のが原因だった。幼稚なものねと心の中で一蹴する。
「雪深を呼び出しましょうか」
一言。言えば彼女たちは途端に焦ったような顔をするが、そんな事どうだっていい。どうせバレるんだから、と取り出したスマホ。
カチ、と電源ボタンを押すが、反応がない。
「……昨日充電するの忘れた、」
最悪、と一度席を立つ。
逃げないだろうけど、「逃げないでよ?」と念押ししてから部屋を出て受付で充電器を借りてから部屋に戻った。……が、残念ながら完全に充電切れになると、ある程度充電できるまでスマホは使えない。
夕飯には間に合わないだろうし、絶対小豆に怒られる。
スマホの充電を持つ間、手持ち無沙汰になってキーホルダーのクマを触りつつ、「ねえ」と口を開いた。
「……雪深のどこが好きなの?」
正直もう男達に用はないけれど。
どうやら彼女たちとは仲が良いみたいだし、わたしが帰った後に女の子たちを家まで送ってくれるだろう。危害は加えないと言ってあるから、何か言う気もないみたいだし。