【完】鵠ノ夜[上]
「え、」
「だから、どこが好きなの?って。
……ああ、質問を変えるわね。あの子の彼女になりたいと思ってるの?それとも、高校で勝手に付けられてる"抱かれたい男"っていうフレーズ通りのことがしたいの?」
事実、最近は落ち着いたけれど少し前までは彼も遊んでいたわけだし。
彼女というよりは遊ばれて終わる関係の方がいいのかとも思ったけど、そうではなく、やっぱり彼女になりたいらしい。
「……彼女になって、誰よりも優しくされたい、ね。
別にそれは雪深というよりも誰かを好きになる女の子の心理そのものだと思うけど。雪深にそれを期待してもあまり意味は無いんじゃない?」
普通よりも落とされた、カラオケならではの照明。
その中でもクマに付けられているダイヤモンドは淡く煌めいて、褪せることがない。これほど純粋に輝ける女になれたら、良かったのかもしれない。
「雪深と付き合おうと思ったら。
……あの子に愛される以上に愛してあげないと、すぐに逃げられると思うわよ。ずっと飢えてるから」
拒まないわたしもわたしだが、彼は未だに夜中にわたしの部屋に訪れる。
訪れてはくちびるを合わせるだけの時間を過ごして、わたしに「だいすき」と囁いてくる。女の子と遊ぶのをやめても尚、本人すらも気づかない寂しさを、なんとかわたしで埋めている状態。
「五家の中で、あの子は一番綺麗な男の子でしょう?
それだけ、繊細なのよ。硝子細工みたいに、透き通るほど綺麗なのに、落とせばすぐに壊れてしまうほど脆いの」
「、」
「あの子を愛してあげるってことは……
その硝子細工が割れてしまわないように、優しくて柔らかいもので包んであげるのと同じことよ。一瞬離れて油断した隙に壊れるなんて、容易にあり得ることでしょうから」
ようやく、スマホが待ち受け画面を表示する。
この間の、芙夏の誕生日パーティーの時の写真だ。組員に頼んで撮ってもらったもので、現時点で唯一の六人揃った写真。
起動とともに不在着信の通知が来て、やっぱり心配させていたかと少し申し訳なくなった。
画面を撫でて、雪深を呼び出そうと電話をかける。電話の向こうから聞こえた声は、不安げで。
雪深、と名前を呼んであげれば、心底安堵したような声が返ってきた。
現状を伝えれば、雪深が余計に心配そうな声をするから、帰ってから抱きしめてあげようと思う。
その後到着した雪深は、案の定女の子たちに対してとても冷たかった。
それでもわたしには甘く忠誠を誓うその姿を見た彼女たちは、さすがに心が折れたことだろう。──それがどんな感情であれ、彼が今誰よりも誠実に愛している女が、わたしであることに。