【完】鵠ノ夜[上]
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翌朝学校にたどり着けば、いつものように女の子たちから鋭い視線が飛んでくるけれど、やっぱりあの子たちの姿はなかった。
いつものようにそれぞれ別れて教室に入ると、ここ数日の習慣である机の中を探る。すぐに指に触れた固い物を引っ張り出せば、それはわたしが昨日忘れて帰ったスマホ。
「……よかった」
クマもちゃんと付いたまま。
机の中を覗けばここ数日と同じ封筒が入っていて、中身を見れば四つ分の『ごめんなさい』という文字が添えられていた。
……別にここまでして欲しかった、わけじゃないけど。わたしはただ、恋愛による嫉妬なんかで、誰かを傷つけるようなことをして欲しくなかっただけ。
少々キツくしすぎたかなと思いつつ、完全に充電までされていたそれを使って小豆に連絡しておいた。
「……、だいじょーぶかよ」
そんな中困ったことが起きたのは、昼食を終えたあと、最後の移動教室の時。
さっきまでは大丈夫だったのに、どうやら小豆が朝テーピングしてくれたのが緩んだらしい。
足首の痛みが完全に引いていないせいで歩けなくて廊下の壁で一休みしていたら、声を掛けてきたのは柊季だった。
わたしの足の不調に気づいたようで、話し掛けるのが嫌だという雰囲気を醸しながらも、視線はどことなく優しい。
歩けなくて、と笑ってみせたら呆れながら「手貸すか抱き上げられんのかどっちだよ」と言ってくる。
……手伝ってくれるらしい。
「手を貸してくれたら歩けるんだけど、
たぶん、休憩時間終わっちゃうから、連れていってもらってもいい……?」
「教室着くまでに俺への見返り考えとけよ」
「ええ、すぐ着くじゃない」
ほら、とあっさり抱き上げられて。
目立つわねと思いながらも歩けないのだから仕方なく押し黙る。教室の前で下ろしてくれようとしたのだけれど休憩終了のチャイムが鳴ったことで、彼は教室の扉を開けて中に入った。
「え、壱方くん……?」
普段なら有り得ない人物の登場で、教室がざわつく。
聞かれた通り席を答えればそこまで運んでくれた柊季は、「終わったら誰か呼べよ」とわたしに告げた。それから自分がここまでわたしを連れてきた理由を明かすように、「歩けねえんだろ」と一言。