【完】鵠ノ夜[上]
「それはこっちのセリフだよ、お嬢。
俺らのことちゃんと分かってくれたじゃん。何言っても見放さずに見てくれてたんだしさ。……ありがと、お嬢」
抱きしめて優しい言葉を雪深がくれるから、余計に泣けてしまう。
いつもなら雪深がこういうことをすると怒る胡粋も何も言わなくて。雪深がわたしをもう一度強く抱き締めて離れると、今度は胡粋が抱きしめてくれた。
「俺からも。結局当日祝えてないしさ。
レイは誕生日なんてどうでもいいかもしれないけど。俺らはどうでも良くないって思うぐらい、もうレイのこと大事に思ってるんだよ」
「ぼくもレイちゃんぎゅーってするのーっ。
ぼくだけ年下だからすごく頼りないかもしれないけど、いっぱいぼくのこと頼ってくれてありがとう。だいすきだよっ、レイちゃん」
「芙夏……」
胡粋と入れ替わって抱きついてきた芙夏。
ぎゅっと抱き締め返して彼にも「ありがとう」を告げると、「次はシュウくんねー」とわたしから離れる。
柊季はやってくれないでしょ、と思っていれば。
彼が「ん」と渡してくれるのは薔薇の花束。
ダークピンクのそれ。花言葉は──『感謝』だと。
言われた瞬間に涙腺が緩くなっているせいで泣きそうになったけど、なんとか堪えて花束を潰さないようにしながら彼に抱きついた。
「ちょ、柊季ずるい……
つーか、なんで引き剥がさねえの!?お嬢ぜったい柊季だけ贔屓してるだろずるい……!」
「うるせえ雪深。
お前だって抱きつかれたら絶対引き剥がさねえだろ」
「お嬢相手ならむしろ抱きしめ返すっつうの!
……じゃなくて離れろよ!?お嬢!!」
「ちょっと雪深うるさい。
ありがとう、柊季。……はとりも」
ぎゅう、と今度ははとりに抱き付けば、彼が渡してくれたのはラッピングの施された袋。
その温もりからそっと離れて「開けていい?」と聞くわたしのそばで、「買いに行ったの俺らなのに」と胡粋が不貞腐れていた。
開けてみれば、可愛い入浴剤とか美容パックとか。
選んだ経緯を聞いて、それでこの選択なのかと納得する。それから、もう一度みんなにお礼を言った。