【完】鵠ノ夜[上]



「ケーキじゃないからロウソクは無くてごめんね。

前にレイとデートした和菓子屋さんで和菓子たくさん買ってきてくれたんだよ。……はとりが」



「御陵のおかげで、

いつも成り立ってるってオマケまで付けてくれたぞ」



「和菓子って絶対胡粋が食いたかっただけだろ」



「なんか言った?雪深。

レイだってケーキばっかりじゃ飽きるよね?」



「ふふ、みんなが選んでくれたんだからなんでも嬉しいわよ。本当にありがとう。

……ああ、そうだ。わたしの正式な誕生日は、4月の17日なの」



たくさんの和菓子の箱を開封していたみんなが、「え」というような顔をする。

わたしが誕生日を教えたから驚いたんだろうけど、こんな風に大事にしてくれるみんなにまで隠そうとは思わない。



実はスマホについているクマの背中にはきちんと日付が刺繍されているのだけれど、小さいから誰も気づかなかったりする。

たくさんみんなにおめでとうを言ってもらって、ありがとうを返したその夜。




本邸の自室に戻ると、枕元に『HappyBirthday』と金色の文字で印刷された白いメッセージカードと、さっきもらったものとは違う真紅の薔薇が置かれていた。

それを見た瞬間、送り主が憩だってことは何となくわかった。置いたのは小豆で、薔薇はともかくカードは憩から預かっていたんだろう。



小豆は、五家のみんなが今日わたしの誕生日を祝ってくれることを知っていたらしい。

もっと早くから持っていたならさっさと渡してくれればいいのに、と思いながらそのカードを指で撫でる。置かれた薔薇の花は3本。……3本?



『赤の薔薇はあげるときに本数で意味が変わるって言うわよね』



『ふ。なら、いつか108本で渡してやろうか?』



いつかの会話が頭を過ぎった。

すぐさまスマホを手に取って開いた検索画面。赤い薔薇を3本で渡すその意味。──その意味、は。



「っ……、どうしろって言うのよ、」



──"あなたの事を、愛しています"。



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