【完】鵠ノ夜[上]
──遡ること、13時間前。
俺らはいつものように夕飯を済ませ、別に誰かが集合をかけたわけでもないが、ただ何となく、今日は全員がリビングに集合していた。
それがめずらしいのは、いつも暇さえあれば主人である彼女に会いに行くか電話するかの雪深が、今日は大人しくしているからだ。
……まあ、会食行ってんだから、当然だな。
「レイちゃん最近忙しそうだよねー」
「……いつもレイは忙しそうにしてるでしょ。
というか、稽古状況どうなの。てっきり全員でやるんだと思ってたのに個人指導なんて、御陵は細かいところまで随分と力入れてるんだね」
6月になり、それぞれの能力に応じた稽古も開始されて約2週間。
とりとめのない日々が日常と化し、雨続きの梅雨がはじまった。
それ故に、放課後誰かがどこへ行く、というのも徐々に減少してきた。
俺は体力づくりでジムにも通っているが、身体を鍛えすぎると良くないせいで、前後の稽古状況に応じて、行っても良い日を指定される。
いつも小豆さんからその指定した日づけを伝言されるが、果たして誰がそれを計算してんのやら。
……あいにく、俺らの主人は忙しくて、んなことしてられねーだろうけど。
「お嬢いねえの、ほんとつまんない……
会食中だから返事もくれねえし、絶対夜中まで帰ってこないだろ」
ふてくされるように、部屋から持ってきたらしい抱き枕のようなものに腕を回して、顔を埋めている雪深。
……つか、なにそれ。なんかその抱き枕、頭とか手があんだけど。
こうやって雪深はすっかり拗ねているが、彼女が外で関わりを持つ相手と食事に行くことは度々ある。
何なら未成年だというのに酒の席に付き合わされていることもあるらしい。もちろん本人は飲まないが。
「あ〜、
変な男に言い寄られたりしてないだろうな〜」
「言い寄られてもレイなら掻い潜れるでしょ。
っていうか今日も相手は軽く年齢50超えてんじゃなかった?」
「女子高生に50オーバーのおっさんの酒の相手させんなっつーの……!」
……落ち着けよ。
んなことお前が言わなくたって、あいつもやりたくねーだろうよ、と思っていれば。