【完】鵠ノ夜[上]
すぐに御陵に連絡を入れたが、事情聴取に来た警察のせいで予想以上に足止めを食らったらしい。
ついさっき戻ってこれたようで、直接俺らにその件を伝えに来てくれたようだった。
「誘拐って、特殊な案件なんですよね?
それなら警察に任せた方が早いのでは、」
「できることならそうしたいですが……
生憎うちは警察との仲が良くないですから。向こうに睨まれてますので、今回のことで都合良く叩かれて罪状でも突きつけられたら困りますからね」
「罪状って、」
「銃刀法違反だったり裏金問題だったり、ですよ。
……長らく悪事は裏に隠れてますので、余計に向こうはそれらを引っ張っておきたいでしょうからね」
この組織も警察も、紙一重。
善悪にわけてしまえば、警察は善でヤクザは悪ってところだ。警察の普段の活動はさておき、俺らに対する扱いは、俺らとそう大差ない。
向こうは法に守られる存在で、俺らが不利な状況にあることもあって、下手に動けない。
警察でも誘拐事件で追ってるんですか?と胡粋が尋ねれば、小豆さんは首を横に振った。
「敵対する組織で、跡を継ぐ最後の砦であるお方が誘拐されたところで、警察には何の損もありませんから。
……むしろ運良く、と思われてるのではないですか」
「ちょ、小豆さん、」
「ああ、もちろん向こうに啖呵は切っておきました。
『こちらで捜索しますので首は突っ込まないでいただきたい』……と」
この人も大抵どうかしてる。
じゃねえとここにいるわけねーけど、やっぱりなんか、どうかしてる。腹ん中どころか、身体全体真っ黒なんじゃねーかなとか思う。
「……それで、
ぼくたちはどうすればいいんですか?」
「ああ、申し訳ないのですが待機していただきたいのです。
何度も起きて欲しくはない件ですが、皆様が護衛である以上、現場に慣れていいただく必要もありますので」
は……?と、全員が思ったはずだ。
護衛が待機したってどうにもならねーだろ、と不満が顔に出ていたんだろう。小豆さんは困ったように苦笑して、口を開いた。