【完】鵠ノ夜[上]



「申し訳ありませんが、皆様はまだ未成年でいらっしゃいます。

いくら護衛とはいえ、皆様は御陵五家の若様ですから、危険な目に遭わせられないのです」



「でも、」



「おそらく今回の誘拐は、プロの犯行です。

刃物を女将に向けるその様に迷いがなかったあたり、誘拐犯どころかプロの殺し屋の可能性も高くなりました」



「殺し屋……」



「ですから、皆様は待機してください。

雨麗様がご帰宅された時に皆様に何かあっては、それこそ御陵一同合わせる顔がありませんから」



念を押すように言われて、口を噤む。

動いていいと言われたって動けるようなことは何もない。俺らは実家でそれぞれ御陵の関係とパイプを持ち合わせていたわけではないし、そもそも拠点がまばらで頼りにならない。



それでも、いくら俺が主人を雪深たちほど好いていないにしても、じっとしてろと言われるのはいささか落ち着かない。

何かできることは、と思案する中で、はとりが冷静に口を開いた。




「……何もないにせよ、彼女の部屋でヒントを探す程度なら、気休めになります。

本人がいないので勝手に入室するのは、俺らも乗り気ではないですけど」



「雨麗様のお部屋ですか?

……まあ、そうですね。重要な書類等は金庫内ですし、データにもロックがかかっておりますので、雨麗様のプライベート空間を侵さない程度でしたら」



「レイちゃんの部屋に……

ヒントとか、偶然あったらいいけど、」



「可能性は限りなく低いと思われます。

ですが、皆様に待機していただくだけというのも申し訳ないので、いってらっしゃいませ」



そう言った小豆さんは、彼女が今日持参していたと思われるバッグをはとりに渡し、何かを小さく告げる。

短く返事を返したはとりを最後に、彼女の部屋へと向かった。



「……ヒント、ね」



綺麗にファイリングされた書類の山と、本邸最奥であるが故に、この部屋にひっそりと置かれた金庫。

ところどころに彼女の私物が混ざるその空間は、初めて見た時から、なんとなく過ごしづらい。



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