【完】鵠ノ夜[上]
「金庫の中に入ってる重要書類以外は、関係者なら見ても困らないものばかりだそうだ。
……当然金庫は鍵がかかっていて開かないが、それ以外は好きに調べてもいいらしい」
「一通り調べたいとこだけど書類は山ほどあるしね……
レイが使ってるあのパソコン、開くの?」
「パスワードは『0318』だと。
大事なもんは暗号化されてその本体には入ってねえらしいから、好きに調べろって」
「……『0318』?
何の番号なんだろ。レイのことだしむずかしい意味でもこめられてんのかもしんないけど」
各々、勝手に部屋を調べだす。
さっきはとりが渡されていたバッグを開けていいかと問えば、どうやら中身は一通り確認しているが、念のためヒントがないか調べておいてくれということらしい。
中身は財布と、プラスチック製の容器に入れられた小分けの香水。例のでっかいクマがついてるスマホは入ってない。
あと……なんだこれ。
「……日記?」
……にしては分厚くねえか?と、ゴム紐で止められていたそれを解いてめくる。
黒い革製のそれの中身はスケジュール帳と日記を兼ねたもので、リングに通る限りならリフィルをいくらでも増やしていけるタイプらしい。
何気なくそれをぱらぱらとめくっていたのは最初だけで。
罫線だけが印刷された用紙に多量に書き込まれた情報に、次第に、ページをめくる手が止まる。
「これ……」
「……なに、シュウ。
それお嬢のバッグの中身?手帳?」
パソコンに目ぼしい情報がなかったのか近寄ってくる胡粋に、それを見せる。
そうすれば驚いたように目を見張る胡粋。それから、心底困ったような表情を浮かべた。
少なからず凄い人物であることは全員理解していた。
だがしかし、それを目の当たりにさせられると、言葉は出なくなるものらしい。分かっていなかったのは、俺らだけだ。
いや、違う。
俺は理解すらしようと、しなかったから。