【完】鵠ノ夜[上]

◆ 絞めつける、永久の鎖








──ふと。

気配を感じて、自室の窓から何気なく下を見下ろす。



樹齢何十年。いや、何百年……とか?

わからないけれど、かなりの年季を感じさせる大きな松の木が二本。



その間にある大きな木造の門をくぐりこちらへと入ってくるのは御陵家のトップに立つ人。

本邸に向かう彼を見送るようにして、愛しい俺らのご主人様は深々と頭を下げた。



親子なのに、どこかそれを感じない。

御陵五家はそれぞれ拠点が遠く離れているため、俺は聖と御陵以外の事情を知らないけど。ここまではっきりと上下関係があるのは、お嬢とその父親だけだと思う。



仲が悪いとか、そういう訳ではないらしい。

"跡継ぎとして認めてもらえている証拠"だと、お嬢は言っていたけれど。……つらいとは、思わないんだろうか。血の繋がった、唯一無二の家族なのに。



「……お嬢帰ってきたよ」



彼女が"仲良く過ごす"を俺らの共同生活の基本にしているせいなのか、自室のある二階からつながる白い螺旋階段はリビングへと続いている。

つまり一階から二階へ行くにも、二階から一階へ行くにも、毎回リビングを経由する。最初は面倒だったそれも、今はもう慣れた。




俺以外の四人が各々自由に寛いでいたリビングで、一応お嬢の帰りを知らせる。

俺はお嬢のこと大好きだけど、それはもちろん俺以外の四人も同じで。



──御陵にとっては、都合の良い男が五人。

ただのお嬢の護衛として、ついているだけのこと。



けれど"個人"であることをまだ俺らが捨てられないのも認めきれないのも、弱くてあきらめが悪いからでしかない。

リビングを抜け、玄関の扉を開ければ彼女はすぐそこに見えている。くすりと俺を試すように笑う彼女の声が、やけに耳に残った。



「まさか、わたしが帰ってくるまでずっとそこで待ってたの?」



「そうだって言ったら?」



「……ああ、嘘ね」



今日の彼女は、紅色の着物。

内装が洋風なこの場所にはミスマッチな格好だが、お嬢の和服姿はその美貌に拍車をかける。──昔から噂には聞いていたけれど、出会った時、そのあまりの美しさに驚いた。



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