【完】鵠ノ夜[上]
「……はとりはこっちに来てなさい。
柊季、あなたなら言わなくてもわかるでしょうけど。……はじめからわたしはあなたたちの誰かに殺しなんかさせない。当たり前でしょう」
「、」
さっきまで暴行されていたのが嘘みたいに、いつもと変わらない足取りでハサミを拾い上げた彼女は、はとりを下がらせてこっちまで歩いてくる。
それから泣きじゃくる女の目の前で足を止めて、しゃがみ込んだ。
「ねえ……
好きな男に首を絞められてどんな気分だった?」
「っ、」
「怖い? それとも、愛しすぎて本望?」
「あんた……狂って、んじゃないの」
恐怖の消えない瞳が、拒絶を浮かべる。
あの状況で、本気で本望だったと思ってんなら、俺もコイツが狂ってると思わざるを得ない。ふっと小さく笑みをこぼした彼女が、視線をハサミへ落とす。
「たかが嫉妬で誘拐して……
わたしを傷つけたあなたたちの方が、よっぽど"狂ってる"と思うけど。……違う?」
「あたしはただっ、」
「そもそも、わたしが狂っていることなんて百も承知でしょう?
常識のある女が本気で極道を継ぐと思ってる?──極道の男を五人も、従えられると、本気で思ってるの?」
恐怖を煽るように、わざと区切った話し方で。
じわじわと躊躇いもなく追い詰めていく姿に、はじめて、彼女の本気の姿を見たような気がする。
「さすがにこれで懲りただろうけど……
次やったら、本気であなたのこと殺しちゃうかもしれないから」
「ッ、」