【完】鵠ノ夜[上]



車の中で息をつきながら、胡粋が尋ねる。

「カメラがあったのは持ち帰るときに彼女たちも確認済みだろうし」と静かに言ったお嬢が、シートに身を預けた。



「万が一のために撮影しただけ。

……あんなものばら撒いて、彼女たちが唯一の支えになる両親とも崩壊してしまったら、取り返しがつかないから」



「………」



「親子の関係ほど強いものはないのよ。

……殴られ損になっちゃったけど」



「……お嬢は、あんま仲良さそうじゃないけど」



「生憎仲は良くないわね。

……ただ、今回のことで誰よりも先に情報を回してくれたのも色んなところに掛け合ってくれたのもお父様だもの。見捨てられているわけじゃないから」



わたしはお父様のこと、嫌いじゃないの。

そう言って微笑む姿が、彼女の父親の姿とどことなく重なる。……彼女の父親が笑ったとこなんか、見たことねーけど。




「……雨麗様、出発いたします。

先に病院に立ち寄られますか?」



「必要ないわ」



「承知致しました」



いつものように。

だけどどこか全員が気を遣いながら、言葉を交わしてもどった御陵家。はとりに何か告げてから、彼女は本邸で待っている父親の元へ向かった。



「……はとり。

さっきは胸ぐら掴んで、その……悪かった」



「……ああ。

俺もお前に余計な心配かけさせて悪かったな。……ケリがついたら、ちゃんとお前にも話す」



朝は晴れていたのに、ぽつぽつと降り始めた雨。

その夜、はとりが彼女と話をすることになっていたようだったが。怪我の影響で高熱が出てしまい、彼女と五家の関係はどこか曖昧なまま。──いつものように、朝を迎えた。



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