【完】鵠ノ夜[上]

◇ はじめから、知っていた








「心配をお掛けして申し訳ございません。

……もう少し雨麗様をお休みさせてあげてください」



襖の向こうから、薄らと小豆の声が聞こえる。

帰宅して、二日。今日は月曜日だが、土曜の夜に出た熱が上がったり下がったりを繰り返していて、今もぐったりしたまま動けないわたし。



小豆の目を盗んで仕事していたからかもしれないが、さすがに今は何か作業を出来るほどの気力もない。

土曜に帰宅して怪我を確認した小豆に、めちゃくちゃ叱られた。



彼はずっと近くで様子を見ていたものの、わたしが何をされても動じなかったせいで、その怪我の具合をあまりわかっていなかった。

五家の目を欺くために自宅まで気合いで平然としたように振舞っていたが、実際は立てないほどにボロボロ。



帰ってきて着替えるときに確認したら、それはもう小豆に軽く何時間も説教されるぐらいにはひどかった。

そりゃあ、怪我の影響で熱が出てもおかしくない。



「お気をつけて、いってらしゃいませ」



小豆が、彼等を見送る声が聞こえる。

間も無く戻ってきた小豆は「生きてます?」なんてらしくもない冗談をふっかけてきたから、つい笑ってしまった。




「小豆……青いファイルとって」



「雨麗様」



「仕事なんかしないわよ……

そこにある青いファイルじゃなくて、金庫の中の」



金庫の中に入っているはずの、水色がかった青いファイル。

それの中身を知っている小豆は、「ああ」と納得したような表情を浮かべた後、厳重なセキュリティを解除して金庫を開いた。



「ありがと」



「……天祥様のことで、ですか」



ええ、と返事しながらゆっくりと身体を起こす。

怪我の具合を知っているからか小豆が手伝おうとしてくれたけど、断って壁に背中を預けた。



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