【完】鵠ノ夜[上]
「……ねえ、小豆。
このファイルの内容、記載ミスじゃないわよね?」
──3ヶ月と、少し前。
これはまだ、わたしが彼らと直接顔を合わせる、ほんのわずかに前のこと。
各家に送った書類が返送され、いくつか周囲にも依頼していた情報を纏めた、五家の情報ファイル。
ぱらぱらと捲った限り、五人ともそれなりの曲者。
極秘ルート、ではないのだけれどありとあらゆるところから入手した情報の中には、彼らの過去についてのものもあった。
その中で。妙に引っ掛かったのが、はとりのことだ。
「どちらですか?」
部屋の隅を使って作業をしていた小豆が、歩み寄ってきてファイルを覗き込む。
『これ』と指差した先は、はとりの交友関係や人間関係にあたる部分。
雪深であれば地元に彼女がいた件だとか。
芙夏であれば、お兄さんがいたが亡くなった旨だとか。割と踏み込んだ内容が多いそれらは、正直見ていて心地のよいものではなかったのだが。
「ああ……これですか。
私も、最初確認した時はミスかと思いました」
「ってことは……本当なの?」
やたらと難しい記載されていた内容を端的にまとめると、『彼女が妊娠していたが亡くなった』というもの。
中学三年生で。挙句書類を見た限りでは真面目そうなはとりが、彼女を妊娠させただなんて、信じ難い。
底知れない危うさを拭うために尋ねれば、彼はお茶を用意しながら穏やかに言葉を紡ぐ。
それが内容と正反対の落ち着きを放っていて、妙に息苦しかった。
「妊娠させたのは……天祥様ではない、と。
ただ……彼女が妊娠させられた、ことは事実のようですね」
「……させられた?」
「はい。襲われた、と」