【完】鵠ノ夜[上]
精神状態も、おそらく良くないだろう。
そんな中で、さすがにはとりに会いたくないはずだ。データを送り付けなくとも停学するだろうと、なんとなくは察していた。
最悪の場合転校するかな、とも思っていたけれど。
確か3人とも3年生だったから、卒業間際に転校したくはないんだろう。入試に停学のことが響いてくるかもしれないけど、そこは向こうが悪いんだから仕方ない。
そもそも3人とも実家がお金持ちだから、最悪自分の家で就職する手もあるだろうし。
……親のコネだって、評判は悪くなると思うけど。
「そういえば、柊季。
あの時とっさに、わたしのこと"雨麗"って呼ばなかった?」
「は?……あー、気のせいだろ」
「……シュウくんって、誤魔化し方超下手だよね」
年下の芙夏に何の遠慮もなくそう言われて「うるせー」と彼は言い返しているけれど、確かに誤魔化すのが下手だと思う。
そもそも、わたしのことを雨麗と呼んだのは事実なわけで。
「これからも雨麗って呼んでくれて構わないのよ?」
「なんでだよ呼ばねーよ」
「なら、なんて呼んでくれるの?」
首をかしげたら、あからさまに視線を逸らされた。
ねえ、と急かすわたしと、巻き込まれないのをいいことにニコニコにしている芙夏。チッ、と舌打ちを零した柊季は、「レイでいーだろ」と小さく答える。
「……名前で呼んでくれていいのに」
「だから呼ばねーって。
そもそも俺も名前で呼ばれんの好きじゃねーし」
「あら、そうなの?
なら、わたしも胡粋みたいにシュウって呼ぼうかしら。……あ、特別な時だけ柊季って呼ぶのはどう?」