【完】鵠ノ夜[上]



言えば、「はあ?」と顔を顰める柊季。

いい案だと思ったんだけどな、と黙り込んだわたしを見兼ねるように、芙夏は「いいなあ」と私たちを見る。



「芙夏、だとそういう呼び方できないもんー」



「ふふ。ふう、だと呼びにくいものね」



「だよねー。

シュウくん、特別な時だけ名前で呼んでもらったらいいじゃんー」



「もう勝手にしろよ……」



呆れたように、柊季がため息をつく。

それを見て、「シュウってこんな感じだったっけ?」と思わず発したわたしの言葉が神経を逆撫でしたのか、苛立ったように睨まれた。



……いや、だって。

言い方が悪かったかもしれないけど、正直とても違和感がある。他の何でもなく、柊季の態度に。




「もっとわたしに素っ気なかった、わよね?

あんまり返事してくれなかったイメージなんだけど」



「……?

あれ、言われてみればそうだよねー!?シュウくん、前もっとレイちゃんに冷たかったよねー!?普通に話してるから気づかなかった……!」



「俺は元からこんな感じだっただろーが」



「潔すぎるほど嘘だよシュウくん……!」



そんなことなかったでしょー!?と芙夏に問い詰められる柊季。

「うっせーな」と芙夏に何の遠慮もない暴言を吐いた彼は、一度わたしをちらりと見てから、どこか言いにくそうに言葉を濁す。



「あー……

だから、こないだお前の日記見て、」



「ああ、もしかして。

この間電話で言ってた『変わってやる』ってこういうことだったの?」



< 185 / 271 >

この作品をシェア

pagetop