【完】鵠ノ夜[上]
言えば、「はあ?」と顔を顰める柊季。
いい案だと思ったんだけどな、と黙り込んだわたしを見兼ねるように、芙夏は「いいなあ」と私たちを見る。
「芙夏、だとそういう呼び方できないもんー」
「ふふ。ふう、だと呼びにくいものね」
「だよねー。
シュウくん、特別な時だけ名前で呼んでもらったらいいじゃんー」
「もう勝手にしろよ……」
呆れたように、柊季がため息をつく。
それを見て、「シュウってこんな感じだったっけ?」と思わず発したわたしの言葉が神経を逆撫でしたのか、苛立ったように睨まれた。
……いや、だって。
言い方が悪かったかもしれないけど、正直とても違和感がある。他の何でもなく、柊季の態度に。
「もっとわたしに素っ気なかった、わよね?
あんまり返事してくれなかったイメージなんだけど」
「……?
あれ、言われてみればそうだよねー!?シュウくん、前もっとレイちゃんに冷たかったよねー!?普通に話してるから気づかなかった……!」
「俺は元からこんな感じだっただろーが」
「潔すぎるほど嘘だよシュウくん……!」
そんなことなかったでしょー!?と芙夏に問い詰められる柊季。
「うっせーな」と芙夏に何の遠慮もない暴言を吐いた彼は、一度わたしをちらりと見てから、どこか言いにくそうに言葉を濁す。
「あー……
だから、こないだお前の日記見て、」
「ああ、もしかして。
この間電話で言ってた『変わってやる』ってこういうことだったの?」