【完】鵠ノ夜[上]



わたしが御陵に帰ってこなかったあの日。

胡粋、雪深から連絡がくるのは想定内だったけれど、柊季から電話が来た時はすこし驚いた。存外穏やかに会話できてよかったけど。



「っ、それはちげーよ!

……いや、全部違う、わけじゃねーけど」



もごもご。もごもご。

言い篭る柊季に、思わずくすくす笑ってしまう。また睨まれかけたけど、芙夏も同じように笑っているから、悪いのはわたしじゃない。



「柊季は、本当はすごく素直よね。

……どんな些細なことでもいいの。変わろうとしてくれて、ありがとう」



はとりと話をすれば、これでやっと。

五家全員の(わだかま)りが、陽炎のようにゆらりと姿を消す。わたしは全員の過去を知っているし、それぞれとは話をする。



だけど五家同士で、いつ誰にその話を打ち明けるのかは、任せたまま。

話したい時なんて、きっとないから。話せるようになった時に、わたしのいないところで打ち明けてくれたらいいと思う。



出会って、もうすぐ3ヶ月。

この期間で彼らと縮めた距離を考えれば、あっという間だったような気もするし、遅かったような気もする。




「あと1ヶ月少しで夏休みね」



「わーいっ。

あ、海とかプールとか行くー!?」



「ふふ、行きたいなら一緒に行く?

御陵の別荘前はプライベートビーチだから、貸切で遊べるわよ。計画しましょうか」



「プライベートビーチ!?

ええ、じゃあ五家のみんなとレイちゃんと行こうよー!あ、あともちろん小豆さんもー」



「2年ほど前は組員も現地集合現地解散、って感じで一緒に集まってバーベキューとかしてたのよ。

近くに御陵の知り合いのホテルがあるから、組員はそこに泊まったりとか」



「ぼく、バーベキューほとんどしたことないからやりたいなぁ。

レイちゃん、一緒に計画しようよー」



わたしのもとへ擦り寄ってきた芙夏の髪を撫でながら、「じゃあ計画しましょうか」と微笑む。

実際、五家のみんなに息抜きしてもらうためにもどこかに連れて行ってあげようと思っていたところだから、海水浴とバーベキューでもいいかもしれない。



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