【完】鵠ノ夜[上]
中学と高校の日程を照らし合わせながら、大体の日程を決める。
あとで今からでもホテルの予約を取れるか確認するわね、となんだかんだ三人で盛り上がっていたら、不意にリビングの扉が開いた。
「お嬢〜っ、体調だいじょうぶ?」
「なんか盛り上がってたみたいだけど、何の話?」
「別邸に来てるのめずらしいな」
稽古に行ってた組が、どうやら一緒に帰ってきたらしい。
おかえりなさいを伝えれば、三人とも「ただいま」を返してくれて。そんな当たり前のことが、すごく幸せに感じる。
「あのねっ、夏休みみんなで海行こうよーって話ししてたのー!
バーベキューとかしたら楽しいよねーって!」
芙夏の顔がキラッキラしてる。
これ以上ないぐらいに笑顔だ。いつもの定位置に移動して隣の芙夏が楽しそうに熱弁しているのを横目に、スマホを開く。
「二年前は和璃とか、色々知り合い呼んでたんだけど……
和璃はともかく、ほかの知り合いはみんな知らないものね」
「え、呼ばないのー?
ぼくは全然呼んでくれていいよー?」
その優しさが痛い、とは言えない。
なんせ和璃の年代といえば、彼が長年片想いしていた雛乃ちゃん、その旦那さん。……そして、憩。
付き合っていた頃は良かったけれど、さすがに別れたのに平然と振舞える自信がない。
それでも、ほかのみんなも「呼べば?」って言ってくれるから、どこか引きつった表情を隠しながら頷いた。
そんな和やかな雰囲気の中、不意に別邸のチャイムが鳴る。
最初に席を立ったのは芙夏で、たたたと玄関までたどり着いた彼の「小豆さんだー」という声が聞こえてきた。……まずい。
「すみません、こちらに雨麗様おられます?」
「レイちゃんならここで、」