【完】鵠ノ夜[上]

◆ その全てが、君だとして








部屋の中に「雨麗」と声をかければ、すぐにどうぞと返事が帰ってくる。

電気は消され、灯篭を模した朧気な灯りが障子を通してわずかに部屋の大半を照らす程度。今日は月明かりの方が眩しいなと、奥の窓辺を見やれば、鈴のような笑みが鼓膜を揺らした。



「……どうした?」



「……ただ、なんとなく。

あなたはそういう人ね、と思って」



「………」



「むずかしいことなんて言ってないわよ。

……ただ、はとりがはとりでいてくれることを嬉しいと思ってるだけ。そこ座って?こんな時間になって悪いわね」



「……髪、濡れてるぞ」



手を伸ばして髪に触れると、わずかに彼女が肩を跳ねさせた。

突然触れて驚かせたかと指でそっと濡れた髪を撫でると、雨麗が俺の手を掴む。……掴む、というよりは包む、の方が正しい、か。




「さっき仕事終わらせて……

急いでお風呂済ませてきたから、」



「乾かしてから俺のこと呼べばよかっただろ」



「いいのよ、口うるさい小豆もいないし。

……それに、もうすぐ1時になるでしょう?」



彼女の髪を包んでいた白いタオル。

それを取って「こっちこい」と脚の間に座らせると、後ろから髪をタオルで拭いてやる。自然と密着する形になったところで、ふと思い出した。



「怪我、大丈夫なのか?」



「気にする程じゃないわ」



「……嘘ついてんなら痛みがあんのか触って試すぞ」



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