【完】鵠ノ夜[上]



冗談のつもりで言ったが、本当に嘘をついていたらしい。

触られたら痛い、と小さくつぶやいた雨麗が、そっと俺の身体に背中を預けてくる。熱の点滴を打ったあとに、そっちも診てもらったようだ。



「……痛む時は、痛み止めを飲むようにって。

あと、処方してもらった軟膏も小豆が塗ってくれてるから、治るまでそう時間はかからないと思うけど」



「……、悪かった」



「………」



「……証拠どうこう、じゃなくて。

もっと早く助けてやるべきだった」



「わたしが望んだことなのに、あなたが謝るのね」



服の上からじゃわからない怪我の具合。

痛まないように気をつかって、そっと腕を回して抱きしめる。悪かったともう一度謝罪の言葉を口にすれば、彼女は「あのね」と小さく呟いた。




呟いて、それからもう一度黙り込んで。

話を纏めたのか「はとりは、」とゆっくり話し始める。何の音も、声も聞こえない。不思議と重苦しい雰囲気は無く、ただただ静かだった。



「……あの時、どう思った?」



「………」



「彼女の首を絞めたあなたを……柊季が、止めようとした時」



声、というよりは、吐息の囁きに近い。

静かな世界を侵食してしまわないよう、彼女が意図的に声を潜めたように聞こえた。それが、言葉を間違わないよう慎重に紡いでいただけだと気づいたのは、自分が口を開いてから。



「こんな言い方は都合良く聞こえるだろうが……

あの時は、正気じゃなかった。我を忘れてるわけでもないし、理性もちゃんとある。それでも、あいつのことと重なって、正気じゃなかったっていうのが一番近い」



「……ええ」



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