【完】鵠ノ夜[上]
結局は見離されたのと同じだ。
復讐だけを誓って生きてきたというのに、その希望も絶たれた。唯一手を差し伸べてくれた彼女ですら、復讐は諦めろと言う。……それなら。
「……諦めないって、言ったら?」
「五家の護衛から解任させてもらうわ。
……って、言いたいところだけど。復讐の仕方は、何も殺めることだけじゃない。彼等が、彼女を傷つけた証拠は探偵に調べさせたあなたなら持ってるはずよ」
「………」
「それを使えば、復讐出来るでしょう?
わたしは復讐を諦めなさいと言ったわけじゃない。……自分の手で誰かを殺める気なら、それを諦めなさいと咎めただけよ」
「あの証拠は……
傷ついたあいつがこれ以上世間の目に、その事実を晒されて可哀想な女だって言われないために、どこにも出さないって決めた」
「世間の目に晒さなくていいの。
……彼等の両親に見せれば、少なくとも謝罪の言葉くらいは返ってくるはずよ。あなたがそこから剥奪したいものがあるのなら、利用しなさい」
……何かを、剥奪したい訳じゃなかった。
出来ることなら、俺だって信頼していた相手の命を奪うような感情は抱きたくなかった。俺は、昔の記憶のままに、写真にうつっているあの時みたいに、平和に暮らしたかっただけだ。
隣にあいつがいて、信頼できるあいつらがいて。
……それだけで、よかったはずで。
発端はあいつが襲われたことだったが、何の意味もなくそんなことをする奴らじゃないはずだから。
そこに何か、ほかの大きな理由があったなら、それもちゃんと知りたかった。……六人で写った写真。なのに、半分も、この世からいなくなって。
「……はとり。これはあくまでわたしの都合の良い考え方で、あなたの気に触るかもしれない。
でも。あなたの手を穢して欲しくなかった彼女が、あなたを止めるために、」
「あいつはそんなことしない。
……俺のためだったとしても、そんなことさせない」
「だけど彼等が亡くなった日は……
彼女が亡くなって、ちょうど3ヶ月後なの」
偶然といえばそれまでかもしれない。でも。
それでもあなたの為だったのかもしれない。──そう言い切った、彼女が。いつも凛として動揺すら見せない彼女が、目の前で俺のためだけに涙を零した。