【完】鵠ノ夜[上]
第一章 巷で噂の女王と番犬
◇ 桜舞う季節、君想ふ今日
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端から、仲良くなれるとは思わないし。
……もちろん、仲良くなる気もないのだけれど。
「御陵さんってさー。
ほんっとに、うざくない? 見た目良いからって調子乗って天祥くんたちと一緒にいるの、まじむかつくんだけど」
「はは、たしかに。
でもさー、喧嘩売ってうっかり殺されちゃったりしたら怖いじゃん?」
「なにそれ、やだ怖ーい」
「なにされるかわかんないよー?
だって御陵さん家って、日本トップの極道らしいじゃん」
──偶然立ち寄った昼休みのお手洗い。
後から入ってきた女の子たちに陰口を叩かれるのはいささか納得がいかない。
声を思い出す限り、隣のクラスのリーダー的存在の女の子と、その親友。
お手洗いに立ち寄ったものの、個室に入った様子はないからおそらく鏡と向き合って化粧直しでもしてるんだろう。
まさか本人がいるとは思っていないようで、キャハハと騒ぎながらぽんぽんと出てくるわたしへの悪口。
そして、常にわたしのそばにいる彼らへの賞賛。
「天祥くんたちもさー、嫌になんないのかな?
なんで、御陵さんの言うことにだけ忠実なわけ?」
「家柄が御陵さんの方が上らしいしねえ。
脅されてるとかありえるかもよ? っていうか、やばいクスリとかやってて、天祥くんたちを洗脳でもしてるんじゃない?」
「なにそれやば。犯罪でしょ」
……やばいクスリって何。
そんなものに手なんか出してるわけがないし、極道ってだけで偏見的に捉えられるんだからおかしなものだ。
わたしが例えば富豪の娘だったら、「お金を渡してそばに置いてる」とでも言い出すんだろう。
──所詮、妬み恨みを向けてくる女子高生の思考なんてそんなもの。
極道の娘だとか、そういうことは結局関係なく。
直結した結論は、ただわたしのそばに彼らがいることへの嫉妬でしかない。