【完】鵠ノ夜[上]
「何度かここよりも静かな場所で暮らしたり、ここに戻ってきたり……
海外なんかで羽を伸ばせたら良いんでしょうけど、生憎家柄的に入国できない可能性が高い国の方が多いの」
「………」
「……元気だから、大丈夫よ。
わたしが会いに行くといつも楽しそうにお話ししてくれるから。少し前にゆっくり話をしたけど、あなたたちのことも信頼してるって」
「レイ、無理してない?」
「……、してない」
きっぱりと、言い切る雨麗。
だけどどこか憂えた表情は拭えないままで。寂しい?と的を得た雪深の言葉に、あからさまな作り笑顔。
その作り笑顔で乗り切れなかったのか、「さみしい」と雨麗が本心を漏らす。
誰かと一緒にいれば、寂しさは埋められる。だけどその寂しさは、本当にそばにいてほしい人間と同等じゃない。──同じだけ、なんて、無理だ。
「……さみしいけど。
わたしがどうこう言ったって、お母様の精神状態が良くなるわけではないから。会いに行って笑顔で会話できるだけで十分よ」
「……それが、無理してるって言ってんだろーが」
「………」
「俺らに対しては遠慮ねーのに、なんで自分のことになると思ってること言わなくなるんだよ。
まだ小さいガキの方が、なんでもかんでも好き勝手言うぞ」
「……何も知らない子どもじゃなくなったから、言えなくなったのよ。
わたしが好き勝手わがま言えば、困る人間がいくらでも出てくるわたしが好き勝手わがまま言ったら、困る人間がいくらでも出てくる」
雨麗の意見は正論で、柊季の意見だって正論だ。
そんな柊季と雨麗、どちらを助けようとしたのか胡粋が口を開きかけたが、声は「だから、」と言葉を続けた柊季に掻き消された。
「……だめだって思ったら、頼れって言ってんだよ」