【完】鵠ノ夜[上]
……俺が言うことじゃないかもしれないが、一番変わったのはおそらく柊季だ。
雪深や胡粋も相当。でもここまで目に見えてわかりやすく、的確に変わり始めたのは柊季だけで。雨麗のことが好きなんだろ、なんて、聞くだけ野暮だっていうのに。
「柊季さ……もしかしてお嬢のこと好き?」
「はあ?」
「……いや、ちがうならいいけど」
気づいていないフリか、もしくは柊季が鈍感なだけか。
……どっちみち、俺には関係ねえけど。
「ふふ……ありがとう、シュウ。
もう少し無理をしない方法を考えてみるわ」
にこりと微笑んだ彼女。
不自然なタイミングでの返事ではあったが、さっきとは違う自然な笑顔に、柊季が言葉を止める。その笑顔に反して愚痴を零すように眉をひそめる雪深。
「なんで"シュウ"呼び?
前は、柊季って呼んでなかったっけ」
「名前で呼ばれるの好きじゃないんだって。
だから、特別なときだけ柊季って呼ぶことにしたの」
「何それずるい……
じゃあ、俺のこともユキって呼んでよ。で、特別な時だけ雪深って呼んで?ね?」
「はいはい、わかったから。
そろそろ学校行く準備しなきゃ、遅刻するわよ」
「ん。俺が学校までエスコートする」
「必要ないわよ、ユキ。
……ねえ、名前呼んだだけで嬉しそうな顔しないでちょうだい」
いつも通りの日常が動きだす。当たり障りのない、見慣れた光景。
変わったのはそこにある信頼の深さ、と。彼女を見つめる視線に入り交じる、複数の感情、だけだ。
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