【完】鵠ノ夜[上]
くすくす。
弄ぶようなことを口にすれば、油断していたのか顔をかあっと赤く染める胡粋。性格に似合わないその初々しさも可愛らしくて、口元の笑みが深まってしまう。
「ほ、んとやめてくんない……?
俺だってそういう時は色々気緩むんだから、」
「だから可愛いんでしょう?
ユキはそう言われるのも好きらしいわよ」
「あいつは単純ばかなんだよ。
……ってかさ、やっぱ五家全員としてんの?」
ぼそ、と。
さりげなく問われて、「ううん」と首を横に振る。わたしの部屋に通い詰めてるのは雪深と胡粋、あとははとりだけ。
「先に声をかけたのはわたしだけど。
芙夏はまだ中学生だから、あの子が自分から欲しがるまでは何も。……シュウは、ただ単にとっても初々しそうだから」
「……あいつ経験なさそうだよね」
ぱたぱたと胸元を扇ぎながら、胡粋が言う。
この姿を学校の女の子が見たら、卒倒するんじゃないかって思うほど色気垂れ流し。……いや、さっきまでは、もっと凄まじかったか。
「こら、そういうこと言うと怒られるわよ」
「……女経験と、そっちの経験人数って別に比例するわけじゃないしね。
そもそも、シュウに彼女いるイメージがない」
「そう?
五家の中だと誰よりも一途に愛してくれそうに見えるんだけど、男女差があるのかしらね」
「えー……俺五家のどいつとも付き合って合いそうなタイプいないんだけど。
もしかしてレイって、シュウがタイプなわけ?」
なぜか扇ぐのをやめて、じっとわたしを見つめる胡粋。
そんな怖い顔しなくてもいいのに。……タイプって訳じゃ、と逃げるように紡げば「じゃあ好きなの?」なんて追い討ちをかけられる。
「好きって訳でもないわよ。
理想と現実は別だって分かるでしょう?」