【完】鵠ノ夜[上]
じゃあ、おやすみ。
ひらりと手を振って、襖の向こうに消える胡粋。胡粋に言われた言葉と、雪深のことがぐるぐると頭の中を回る。
「……何が正解なの」
誰に縋るでもない言葉が、口を突いた。
ごろんと布団の上に横になって、置きっぱなしにしていたスマホを引き寄せる。お気に入り登録なんて、らしくないことをしてるそこから、見慣れた番号を引き出した。
『……深夜に掛けてくんなよクソガキ』
相変わらず口が悪い。
というか、どんなに遅くかけたって、絶対に出てくれるじゃない。大事な取引先との会議やちょっとした営業の仕事でよっぽど出れない時以外は、出てくれるくせに。
「小豆が……
繋がった瞬間切られた、って怒ってたわよ」
旅行のことで連絡しておいて、と頼んだのに。
「忙しい掛けてくるな」とすぐさま電話を切られた、とぶつぶつ文句を言っていた。憩と小豆はとにかく仲が悪い。いい大人が揃いも揃って。
『小豆、な』
「……、櫁のことって理解してるでしょ」
『どうせお前の用事だろ?
ならはじめからお前が掛けてこい。つーか、お前こないだ熱出してぶっ倒れてたって?』
「……誰から聞いたのそれ」
『和璃』
ああ、この間ヘアメンテナンスに行った時に話したんだっけ……
相変わらず情報の伝達が早いことで。っていうか和璃に憩と別れたこと話したっけ。話した気もするし話してない気もするけど、まあたぶん理解してるだろう。
『……なあ、』